【第2部】認知症のとき相続手続きはどうなる?家族を支える法定後見制度
本記事は、成年後見制度について全5回で解説するシリーズの第2回目です。
第1部では、法定後見と任意後見の違いについて解説しました。
今回は、何の備えもしていなかった場合、家族にどのような問題が起こり得るのかを具体的にお伝えします。
認知症は、誰にとっても他人事ではありません

厚生労働省の推計では、2025年には認知症の方は約700万人、65歳以上の約5人に1人が認知症になるとされています。さらに2040年には800万人を超えるとも言われています。
つまり、「うちは大丈夫」と思っていても、ある日突然、現実になる可能性がある身近な問題なのです。
そして問題なのは、何も準備していない場合、家族が想像以上に厳しい状況に置かれることです。
ある日突然、親の財産が動かせなくなる

親が認知症と診断され、判断能力がないとみなされると、本人は法律行為ができなくなります。
これにより、現実には次のような問題が起こります。
施設費用が払えないという現実

たとえば、親の介護が必要になり施設入所を検討したケース。
月20万円の施設費用を捻出するため、親名義の不動産を売却しようとしたものの、本人に判断能力がないため、売却ができない。
結果として、子どもが自分の貯蓄から施設費用を立て替え続けることになります。これが何年も続けば、家族の生活そのものに大きな負担がかかります。
「良かれと思って」がリスクになることも

実際には、多くのご家族が次のように対応しています。
親の通帳と印鑑を預かり、施設費用などを親の口座から支払う。
一見、問題ないように見えますが、ここに大きな落とし穴があります。
法的には「代理権がない」状態

本人の判断能力が失われた時点で、家族であっても、本人の財産を自由に使う法的な権限はありません。
たとえ親のために使ったお金であっても、正式な権限がなければ「勝手に財産を動かしている状態」と見なされます。
後から法定後見が始まった場合

後日、法定後見が開始され、弁護士などの専門職後見人が選任された場合、後見人は過去の通帳履歴を確認します。その際、「この出金は何のために使われたものですか?」と説明を求められることがあります。
領収書などが十分に残っていない場合、「使途不明金」として返還を求められるリスクもゼロではありません。
相続手続きも止まってしまう

さらに深刻なのは、認知症の方が相続人になった場合です。
たとえば、父が亡くなり、母と子どもたちで遺産分割協議を行おうとしても、母が認知症で判断能力がなければ、協議そのものが成立しません。この場合も、家庭裁判所への申立てを行い、成年後見人を選任してもらう必要があります。
その結果、相続手続きが数か月〜1年以上止まってしまうケースもあります。
善意が裏目に出る前に

「親のために」「家族だから」という思いで行動していても、法的には問題になる可能性があります。
実際に起こり得る問題は次のようなものです。
- 不動産が売却できず、施設費用が払えない
- やむを得ず口座を使うが、法的にはグレーな状態
- 後に後見人から支出を追及される可能性がある
- 相続手続きが長期間ストップする
ただし、これらの問題は事前の準備によって防ぐことができるものばかりです。
専門家としての意見

認知症になってからでは、選べる選択肢は大きく限られてしまいます。多くのご相談を受ける中で、「もっと早く知っていれば…」という声を何度も聞いてきました。
- 家族がいても、法的には自由に財産を動かせない
- 善意で行った行動が、後にリスクになることがある
- 相続や介護の手続きが長期間止まってしまうことがある
こうした事態は、決して特別なケースではありません。だからこそ、「元気なうちの備え」が重要になります。
次回予告(第3部)
次回は、任意後見契約を結んでおくことで、これらの問題をどのように防げるのかについて、具体的なメリットを解説します。
認知症と後見制度シリーズ(全5回)
認知症・財産管理・相続への備えについて、順番に読むことで理解が深まります。
